達大     :「あれは──ちょっと無理ですねぇ。手に余ります」  上司     :「そうは言ってもなぁ。堺さんの紹介だから、うかつなこ         :とを言って面子を潰すわけにもいかん」  上司     :(渋い顔)  達大     :「知り合い連中にあたってみましたが、天使憑きさん、異         :能を奪うらしいです」  達大     :「うかつに手を出すと、こっち関係の仕事を全てお断りせ         :ざるを得ないことになりかねませんが」  上司     :「──それも困るねぇ」  達大     :「本業の方も立て込んでますし」  上司     :「まぁ、先方の噂もいまひとつ良くないしなぁ」  上司     :(胸ポケットからタバコを取り出す)  達大     :「相変わらずECHOなんですね。最近はめっきり見かけなく         :なりましたけど」(タバコに視線を向けて)  上司     :「桜木君もどうだね?」  達大     :「いえ、タバコはやめましたので──それに、応接室は禁  上司     :「相変わらず変なところで堅いな」  達大     :「約束は守る、ってのは交渉人の基本心得ですから」  上司     :「その調子で、なんとかやってみんかね?評判は悪いん         :だが、その先に自民党の尾偉いさんがつながっててな」  上司     :「途切れるのは、会社的に痛いのも、まぁ事実なわけなん         :だ」  達大     :「社是にもあるじゃないですか。フェアな会社経営、って」  上司     :「そりゃそうだがね。政治家の先生と有効な関係を保つの         :は、別にアンフェアじゃない──ってのは少し苦しいかね」  達大     :「──と、思います」(苦笑)  上司     :(苦い顔で考える)  上司     :「──あぁ、そういえば弟子を取ってるんだって?女子         :高生の」  達大     :「また、言い方がヤラシイですね。オジサン化、進んじゃっ         :てるんじゃないです?」(苦笑)  上司     :「お前もあと10年もすりゃこうなる」  達大     :「とりあえず、言わんとするところはわからないでもない         :ですが、それはお断りします。そもそもうちの社員じゃな         :いし」  達大     :「だいたい女子高生を人身御供に出してエクスキューズを         :勝ち取ろう、なんてセコイ発想が小さい。偉くなったんだ         :から、もうちょっと大局的なものの見方をしてください」  上司     :「お前──遠慮ないなぁ。普通、平社員と部長の会話って         :のは、もうちょっと固いもんだよ?」  上司     :(タバコをソフトケースから出しつつ)  達大     :「もう8年も差し向かいで仕事してれば遠慮も付きます──         :それから、ここ禁煙ですってば」(苦笑)  上司     :「──あ、あぁ、わかってる」  上司     :(ケースから出かけたタバコのフィルタに視線を落とし、         :つま先でリズムを取るように床を叩く)  上司     :「まぁ、しょうがないわなぁ。こっちで聞いてる話を考慮         :しても、損得ぶつけて損の方が多い」  上司     :「──明日、先方のところ行くからとっときのスーツ着て         :出社すること」  達大     :「そのように。ちなみに先方の代理人さん、ボクと同じタ         :イプの方ですので、そのつもりでお願いします」  上司     :(露骨に厭そうな顔)  上司     :「お前ねぇ、どうしてそういうの相手させるかな」  達大     :「いやいや。久しぶりに先代猫回しの交渉術を勉強させて         :いただきます」  達大     :「可愛い弟子が、やられちゃいましてね。いやぁ、不覚で         :した」(茶杯を片手ににこにこ)  前野     :「……すいません。こんな時間に」  達大     :「いえいえ。ボクもハラワタ煮えくり返っちゃってどうし         :たもんかと思ってたところでしたから」  前野     :「…………」  地面に膝を着いて  前野     :「申し訳ない……」  土下座  達大     :「スノウドームのお代、7割引きでチャラにしましょう」  前野     :「……此処でそれを出すか……良いでしょう、わかりまし         :た」  達大     :「なに、連中も『猫回しなんて言っても大したことない』         :なんて吹いて回るでしょうけど、それくらいで揺らぐほど         :の駆け出しじゃありませんから」  達大     :(にこやかに)  前野     :「たすかります……」  達大     :(でも、つま先でデタラメにリズムを取るように毛足の長         :い絨毯を踏みつけている)  立ち上がって、会釈してから席に座る  達大     :「それよりも、ですよ──」  煖が静かに入ってきて、ティーッポットを置いていく  前野     :「……(お茶を注ぐ)」  達大     :「どうせ前野さんも、動くんでしょう?ボクも一枚噛ま         :せちゃもらえませんか?」  達大     :「正式にお断りした手前、会社のバックアップは受けられ         :ませんが。その分、うさんくさい連中の思惑に乗らなくて         :済みます」  前野     :「……私が動くと、家が空いてしまいますからね……なか         :なか」  左手を、テーブルに置く  前野     :「こういうモノでしか動けそうにないですが?」  達大     :「──?」  ズズズズ、とおどろおどろしい楔が数本  達大     :(前野さんの左手に視線をむける)  結界兵器  達大     :「相変わらず演出にも凝りますねぇ」  前野     :「……達大さんには、逆にお願いしたい」  達大     :「相変わらず我慢してますねぇ──まぁ、それだけ責任が         :重いんでしょうけど」  前野     :「『纏め』をお願いできますか、連絡役だけでもいいと思         :います」  達大     :「(というか、使える頭数を増やさないとたいそう格好悪         :いハメになるしな)」  達大     :「(ここまで言った以上は、綺麗に始末つけないと──段         :取りだんどり)」  前野     :「アレは『啖うモノ』でしょう?」  達大     :「そうらしいですね」  前野     :「なら、貪欲に啖い続けますよ。本能として」  達大     :「(お陰で、うかうか前に立てない──とんでもないのと         :交渉させようとしたもんだよな。あの連中も)」  達大     :「でしょうね」  前野     :「人は、ほっといても集まるでしょうから」  達大     :「──」(あっけ)  前野     :「犠牲が出れば、縁者は仇を取りたがるでしょう?」  達大     :「──相変わらず、また、エゲツないですねぇ。流石にそ         :こまではボクも考えませんでしたよ?」  達大     :(苦笑)  前野     :「なにをおっしゃる……」  前野     :「言ったでしょう?……不甲斐ないことながら」  さっき出した結界の楔を玩びながら  前野     :「私は『支援』でしか動けそうにない、と」  達大     :「なるほど。無道邸を本部に徹底抗戦。指揮官として後方         :支援に徹しますか」  達大     :「そうなると、目と耳の役が必要ですね」  達大     :(指先で、軽くまぶたをもみつつ)  前野     :「私は兵站ですよ?」  達大     :「前野さん、つみきさんの敗因はなんだったと見ます?」  パチンッ、と指を鳴らす  達大     :(前野さんの発言を笑顔でスルーしつつ)  前野     :「情報不足、リスク判断の間違い、少々の自信過剰」  煌と煖が部屋に入ってくる、今はスーツ姿  達大     :「こんばんは。また、今日は動きやすい服装ですね」  前野     :「簡単な連絡役なら、こいつらにやらせましょう。よき戦         :闘を」  煌      :「サー、よろしくサー」  達大     :「ボクは飽くまで交渉屋ですよ。アラゴトを期待するなら         :他を当たってください」(苦笑)  煖      :「お願いするのは指揮ですから」(にこにこ)  前野     :「まずは、私の知ってる敵生体情報を纏めます。対処結界         :も、単発なら何とか……(ぶつぶつ)」  達大     :「いずれ、つみきさんの敗因は情報不足の他に、作戦なし         :に突っ込む無謀さ,下準備の軽視もありますね」  達大     :「勝負を仕掛けるのは、勝敗を決してからでないと」  達大     :「そういうわけで、目と耳が必要です。短期決戦が前提な         :ら、数はある程度いる」  達大     :「目の方は心当たりが一人あるんですが──あそこは、         :ガードが固いからなぁ」  前野     :「あげはに拠点を起きましょう。あそこの店主は金で動か         :せる」  達大     :「無道邸は──まぁ、襲われたときがマズいか」  前野     :「まぁ、そういうわけです……知り合いには連絡網してお         :きますか?」  達大     :「では手配はお願いします。それから、スカウトもお願い         :できますか? いずれ、吹利市内の異能者になにかあれば         :前野さんの耳に入るでしょうから」  前野     :「そんなに大したものじゃないですよ……ハンターの方に         :は噂を流しておきます」  前野     :(スカウトは、連絡網ついでに……だな)  達大     :「コマがそろうまで、ボクは情報収集とスカウトに回りま         :す」  前野     :「よろしくお願いします」  さっきの楔を渡す  達大     :「お互いに上京に変化があれば、連絡を取るってことで」  達大     :「ありがたくお預かりしておきます」(受け取る)  達大     :(立ち上がる)  つみき    :(先生が出て行くところ、よろよろ出てきて深々と頭下げ         :る)  達大     :「さて。勝負服の調達と有給と火狐さんの非難と──いやぁ、         :忙しくなってきました」  達大     :「お疲れさま。今日はもう遅いので、お説教は明日にしま         :しょう」  前野     :「……」(横で支えて)  つみき    :「……」(もう一度頭下げる)  達大     :「つみきさんの小生意気な反論がないと、お説教のしがい         :もないことですし」  達大     :(にや)  つみき    :(びくびくびく)  前野     :「……さ、部屋に戻るよ」  つみき    :(こくり)  達大     :「おやすみ。まぁ、疲労感が取れたら対策本部へどうぞ」  達大     :「事務仕事ができる秘書とか居ると仕事がはかどります」         :(にこにこ)  つみき    :(破門覚悟してたからボロボロと)  達大     :「一度くらいの敗北で尻尾まくような弟子を育てた覚えは         :ありません」  つみき    :(なるべく顔見られないように頷きながら部屋に戻ってい         :く)  達大     :「ガッツがあるなら、顔をあげて歩き出してください」  前野     :「つみきちゃん、私からの『お話』は明日にするからね……         :今日はもう寝よう、傷を治して体力を消費しているからね」  達大     :「それじゃまた」  達大     :(退場)