その事件を語るとき、彼ら吹利学校実験科一年一組クラスメイト一堂は、皆 一様に口を重くして、何かおぞましいものを思い出すときのごとく小さく首を 振る。  最初に出てくるのはため息だ。次に出てくるのは、聞いたものの信心深さに もよるが、彼らの信ずる神の名であることが多い。何かに懺悔するように悔恨 をその目元に浮かべ、彼らは一言だけ語り、そのまま口を閉ざす。 「ふざけんな、全部てめえのせいだろうが!」  私、八重咲狭也は、後に実験科変人大戦と(私に)呼ばれることになるこの忌 まわしき悲劇の目撃者として、出来るだけ性格に、事件の全容を書き記してお こうと思う。  全ては迷い込んだ、一匹のカニを発端として始まった。  ヤシガニ   :「かにー」  狭也     :「……クラスメイトにカニが居たかな」  このとき私の浮かべた疑問は至極もっともなものであったはずだ。教室にい る人間というものは、大別すると四種類に分類される。クラスメイトか、別の クラスの人間か、教師か、クラスメイトの父兄かだ。  まず教師である可能性は省かれた。私も大概に酔狂な人間であるが、カニの 元について勉学に励もうと思ったことは、これは断言する。今まで生きてきた 中で一度としてない。学校紹介関係の書類にあった教師陣の中にカニの写真な どが混じっていたなら、迷わずこの学校への志願を取り下げ、既に滑り止めと して受かっていた西生駒高校への進学を決定していたはずだ。私が吹利学校高 等部に通っている時点でこの可能性は排除される。論理的に明確な解答だ。  あと残っているのは別のクラスの人間か、それともクラスメイトの父兄かの 可能性だけであるが、この二つは除外してもかまわない。なぜなら、例えクラ スメイト以外の人間がカニであったところで、私に直接的な被害が及ぶわけで もない。またクラスメイトの父兄であった場合も一考するに価しない。クラス メイトがカニと血縁関係にあるならば、そのクラスメイト自身もまたカニでな くてはならないからだ、結局クラスメイトにカニがいたかという疑問が提起さ れる必要が出てくる。  以上の理由によって証明されたことだが、私の口にした言葉は実に無駄の無 い疑問であった。おそらくこれは現代と言う時代を生きるありとあらゆる知恵 者に聞いたとしても、そのほぼ全員から賛同の得られる事実だ。  にも拘らずである。私の隣にいたクラスメイト西久保史雄くんは、アホを見 るような半眼で私の方を見ると、ポツリと一言、ただの一言をもってして、私 の完璧な疑問につっこみを入れたのだ。  史雄     :「……いないと思うぞ」  何たることだ。私は絶望に天を仰いだ。  元晴     :「なんで、教室にカニが……」  ヤシガニ   :(触覚を振る)  久遠     :「──あ」  狭也     :「教室に犬が居るより自然だろう。どうだい、チミ。ここは一つカニ鍋といこう」  久遠     :「ヤシガニだ」(手元の生物図鑑を見つつ)  しえる    :「かに?」  狭也     :「おや、カニ博士久遠。知っているのか」  史雄     :「食えるのか?」  月下     :「わあっ。わたし、料理しましょうか?」(包丁を何処からとも無く取り出す)  久遠     :「だ、ダメですよ。可愛そうじゃないですか」  元晴     :「わーわーだめー(><)」  ヤシガニ   :「かにー」(もがく)  久遠     :「確かに油が乗ってて美味しいらしいですけど──ほ、ほらっ、首にリボン巻いてあるしっ」  元晴     :「てか、それ常備してるの……月下さん、、、」  狭也     :「弱肉強食だよ。クラスメイトでないのなら食べない理由にはならないな」  史雄     :「(びく)倉崎さん、包丁持ち歩くのやめてくれよ、怖いから!」  月下     :「くすくす、趣味ですからー」  元晴     :「……(どーいう趣味なんだろう……料理、だよね、料理……)」  狭也     :「ちなみに銃刀法違反だ。多分」  ヤシガニ   :(もっともがく)  しえる    :「……これも定めです……」(なむなむ)  狭也     :「倉崎ィ。俺のことはかまわず刺せエッ!」(カニを前に構える)  元晴     :「まって〜なんかノリがちがーう」  久遠     :「ダメですっ」(割ってはいる)  ヤシガニ   :「かにっ」(久遠の背中にしがみつく)  久遠     :「いたっ──あっ、やだっ、くすぐったいってばっ」(ヤシガニ君の触覚とか爪とか足とかが痛かったりくすぐったかったり)  頼子     :(ぱちっ)<とっさに電子レコーダにさっきの久遠の声録音  狭也     :「おのれっ……倉崎、久遠のことはかまわず刺せエッ」  元晴     :「てか、その発言はおかしいってばー」  狭也     :「やっぱりそう思う?」  史雄     :「刺すな刺すな」  頼子     :(いいものが録れた)  月下     :「元晴君に両手を握られちゃいましたぁ。きゃっ」(ぽっ)  狭也     :「大胆ですね」  元晴     :「(ぱっ)ち、ちがうってーー」  月下     :「あら、チャンスですか?」  狭也     :「行け」  久遠     :「離しちゃダメですよーっ」  元晴     :「え、あ、でもー」  狭也     :「邪魔するものは切るとばかりに行け」  元晴     :「わー月下さんだめーってばー」  月下     :「うふふふふっ」  久遠     :「(し、仕方ない──ぷち祟りするしかっ)」  ヤシガニ   :「かにー」(足をわきわき)  久遠     :「(頼むよっ)」(地味に瞳が金色に)  狭也     :「というところで足払い」  元晴     :「まって、ってば」  月下     :「おいしく食べてあげますわー!…きゃあ」  元晴     :「え”」  しえる    :(自席に座ったまま自習のふり)  月下     :「さすがにお二人を相手にするのは困ってしまいますわー」(赤面)  久遠     :「わわっ、ごめんなさいっ──急に足をとられてっ」  元晴     :「え、いあ、その、違いますっ!」  狭也     :「いやん、西園寺ピーの助平」  月下     :「エッチスケッチワンタッチですわー。うふふ」  元晴     :「いや、そのごめんなさいっ(わたわた)」  久遠     :「へ、変なこと言わないでくださいっ」(立ち上がる)  狭也     :「ふひひ」  ヤシガニ   :「かに……」(廊下に出る。晶探し再開)  史雄     :「あ、岩下先生……」  岩下先生   :「んー」  岩下先生   :「なんだが騒がしい……ぞ??」(3人の塊をみている)  元晴     :「あ”」  史雄     :「(あちゃー)」  久遠     :「──す、すいませんっ」  元晴     :「わわ、せ、先生、す、す、すいませんっ」  史雄     :「岩下先生、事故です事故」<誤解嫌いなので状況説明に入る  岩下先生   :「えーっと……そこの三人、名前は?」  久遠     :「西園寺久遠です」  元晴     :「橋本元晴……です」  月下     :「みなみはるおでございまーすっ」(そっと包丁を隠す)  元晴     :「…(月下さーん(涙))」  狭也     :「(ナイスッ)」  SE      :(かしゃーん)  岩下先生   :「……」(怒り顔)  史雄     :「(怖いもの知らず倉崎さん)」(汗  つみき    :(知らない知らない知らない……)  久遠     :「あっ、あのっ、倉崎さんに悪気はなかったんですっ」  岩下先生   :「……ん? なんの音だね?」  元晴     :「………(げ)」  月下     :「あらやだ私としたことが、こりゃまたしつれいしました〜」  久遠     :「ちょっとふざけてたら、急に先生が来ちゃったから混乱しただけなんです」  三十郎    :「ん?」(包丁拾う)  元晴     :「ええと、ちょっと、プロレスごっこを……」  久遠     :(岩下先生の方に近づき、包丁から視線をそらそうとする)  三十郎    :「ん?」  岩下先生   :(音のほうに近づく)  史雄     :「(あーもう、3人が3人バラバラじゃねーかっ)」  三十郎    :「んーむ」(掲げて眺めてみる)  狭也     :「(わざとだ、絶対)」  月下     :「あら、プロレスだったんですか?」>元晴  岩下先生   :「……な、な、何を持っているんだね、キミはぁっ……」<三十郎  三十郎    :「包丁ですな」  元晴     :「あうう(月下さん、あわせてようー)」  久遠     :「──へ?」  久遠     :(ゆっくり振り返る)  元晴     :「え?(振り向いて蒼白)」  月下     :「わあ、三十郎君っ、四天王っぽいですよおー」(くすくす)  狭也     :「彼は大将だからね。流石だ」  久遠     :「わわっ、津山君っ、なっ、なにしてるのーっ」  史雄     :「(ちょっと待て、あいつに刃物持たせたら何するかわからねぇぞ!)」  三十郎    :(なんだ。皆が俺を見ている)  岩下先生   :「……キミ、名前は??」  久遠     :「はっ、はやくその包丁をかく──しまってーっ」  元晴     :「うわ……あうあう(じりじり)」  三十郎    :「津山三十郎だにゃん」(ネコ耳ぴょこん)  岩下先生   :「……ぅぅぅううううう……」  三十郎    :「……」(受けない)  狭也     :「ブラボー」  月下     :「うわあ、凶悪性と相まってちょっとカッコいいですよお」(にこり)  岩下先生   :「お前ら4人、職員室にこいっ!!!」  岩下先生   :(怒り頂点)  元晴     :「ひぃ」  久遠     :「──は、はいっ」(びくっ、と反射的に)  岩下先生   :「名前も覚えたからな」  狭也     :「センセー、生徒側としてはその理由を要求したい」  史雄     :「ふざけてんじゃないっ」(叩>狭也君  三十郎    :(困ったことになった)  月下     :「あっ、すみませんっ。怒らせちゃいました…」  狭也     :「ふざけてなど居るものか、クラスメイトが不当に拘束されるならば黙ってみている訳にはいかない」  岩下先生   :「……悪ふざけにも程があるからな」  史雄     :「それはわかる。問題はその前の『ブラボー』だ!」  狭也     :「これが授業中ならばまだしも、今は昼休みだ。悪ふざけをしてはいけない法はないさね」  岩下先生   :「それに、クラスメイトの悪ふざけを止められなかった者たちにも責任はあるぞ?」  狭也     :「だから、法は無いんだってば」  久遠     :「(う──八重咲君が状況をより悪化させてるよぅ)」  元晴     :「いや、だから、もうややこしくしないでー」  三十郎    :「うんうん。このハゲのおっしゃるとおりだぞ」(包丁をぷらぷらしながら)  狭也     :「我々はー、断固として悪ふざけをする権利を要求する〜」  岩下先生   :「いくら昼休みとはいえ、学校にいる間に何か事故があったときには、いまこの場にはいない担任達にも責任が及ぶんだぞ? 高校生にもなってまだそのあたりがわからないのか?」  久遠     :「(津山君は、相変わらず奇人変人の見本みたいな振る舞いしてるし──っていうか、包丁をぶらぶらさせてたら危ないよぅ)」  健二郎    :「……とりあえず、危ないもんは離さんかい」(津山君に羽交い絞めかける  狭也     :「どのあたりが、事故の起こる要因になるかな。これ?」  元晴     :「(もーこれいじょうややこしくしたら、めちゃくちゃになるー)」  健二郎    :「……そんなことされたら、全校生徒が迷惑や」>狭也君  久遠     :「(わ、今度は凶器が八重咲君に移った──)」  元晴     :「とりあえずっ、職員室いこ!ね!」  三十郎    :「しかたない。行こうハゲ。こいつらには言ってもわかりませんよ」(岩下先生の肩に手を回して歩いていく)  月下     :「あのう、ソレわたしのなんです。お料理が好きなので持ち歩いててー…。すみませんー」(ぺこぺこ付いて行く)  久遠     :「や、八重咲君っ、えっと──そのお話は、ボク達が職員室でするからっ」  元晴     :「月下さん、すぐしまってこれ、あぶないから……」  久遠     :「そ、その包丁は、しまっておいてっ──ねっ」  岩下先生   :「それじゃ、包丁は私があずかろう」  月下     :「そうですよねー。わたしッたらついうっかり。ごめんなさいー」  狭也     :「こんなものは、ただのオモチャですよ」(くにっと刀身を曲げる)  元晴     :「ほら、ほら、ねっいこう(月下の背中おしながら)」  岩下先生   :「……」(怒)  狭也     :「まさか本物の包丁なわけ無いじゃないですか。いやだなあ、先生」  元晴     :「狭也くんもうしゃべらなくていいから〜」  岩下先生   :「……お前も職員室にこい」<狭也  狭也     :「拒否します」  久遠     :「せ、先生っ。しょ、職員室でお話しますからっ」  元晴     :「とりあえずいこう!ね!」  史雄     :「お前は力ずくでも連れて行く」(怒)  元晴     :「……うー」  三十郎    :「さあさ、これ以上こんなとこでだらだらしても仕方がない。急いては事を仕損じる、だ」(岩下を連れて出て行く)  狭也     :「おや」  岩下先生   :「あとの皆はおとなしくしているように」(三十郎に連れて行かれる)  元晴     :「とりあえず、いこうね」  三十郎    :「馬鹿に関わるだけ無駄というモノですよ、先生」(とかいいながらでていく)  久遠     :「津山君、それ意味が逆だよ」(言いながらついていく) > 急いては言を  月下     :「ああ、ごめんなさいー。全部わたしのせいなんですー。包丁も皆さんを誘惑したのもなんです。スミマセンー…えうえう。」(半泣きで連れて行かれる)  元晴     :「……えと、誘惑はちがうって(滝汗)」  狭也     :「なんということだ、私は何一つ間違った事を言ってないのに」  史雄     :「あれじゃ橋本と西園寺がかわいそうだ、まったく」  恵理     :「いらっしゃいませー」  元晴     :「……はぁ、散々だったよ(深々とため息)」  狭也     :「まったくだ」  元晴     :「だーれーがーやーやーこーしくーしたーんだよーーーー(襟首ぐにーーーー)」  狭也     :「わ、私は自分が正しいと思うことお……をぐえ」  月下     :「すみません。わたしかもー…。ぐすぐす」(ずっと半泣き)  元晴     :「……いや、月下さん……こんどから気をつけてくれれば……」  史雄     :「とりあえず、調理場以外のところではもう包丁出さないでくれ。いろいろ危ないから」  元晴     :「うん……こんどはちゃんと調理場でつかってくれれば……」  月下     :「はいー、残念です…」  つみき    :(おごりでジュース飲んでる)  狭也     :「ところで桜居嬢はなんでいるのかな」  元晴     :「なんか……男女両方を押し倒したと思われてるし…手n」  つみき    :「あら、巻き込まれたって事なら私もそうだもの。授業が遅れたんですから」(にっこり)  狭也     :「ちゃっかりしてるなあ、今月の小遣いどんくらいあったかな」  元晴     :「うう……(メロンフラッペをちゅー)」  つみき    :「冗談よ。ただの便乗だから自分の分は自分で出すから安心して」(シェーキちゅーちゅー)  狭也     :「そりゃありがたく」  月下     :「そういえば、つみきさんさっきは気配すら感じませんでした。すごいですねえ」(オレンジをズズー)  史雄     :「まーしかし、説教だけで済んで良かったと思おうぜ。部停やら停学やらにならなくて」  元晴     :「……ホントに」  狭也     :「というかあれだよ。我々はただ休み時間に遊んでいただけじゃないか。なんであそこまで絞られなければいけないのか理解に苦しむね」  つみき    :「蟹、追いかけてたのよ。すぐ見失ったけど」  元晴     :「……結局、あのヤシガニなんだったんだろ」  月下     :「そんなに蟹がお好きなんですか?あらあら、つみきさんたら食いしん坊さんですねえ」(くすくす)  狭也     :「野良じゃないか? ほら、時々犬とかなら来るし」  史雄     :「あんなの見たことないよなぁ」  元晴     :「……犬もどうかと思うんだけど……」  月下     :「野良のカニさんなら、食べても良かったですよねえ」  つみき    :「あの大きさなら大層身も詰まっているだろうと以前から目を付けていて……ってそんな食道楽じゃないわよ」>月下  狭也     :「全く、素直に解体してれば騒ぎにはならなかったのに」  元晴     :「……そーいう殺伐としたのやめよーよ」  史雄     :「いやー、西園寺が必死に止めてたからな……あれ、西園寺は?」  つみき    :「なんだかあのあと青い顔して逃げてったけど。よっぽどショックだったのかしら」  元晴     :「そだねえ……かわいそうに」  つみき    :「普段怒られるタイプじゃないものね」  狭也     :「案外、カニと知り合いだったのかもね」